空間の伝統は、じつは、むかしからのものであった。そして、身分制秩序のきびしかったむかしの社会では、この空間の落差は、そのまま、そこに生活する人間の階級関係を規定した。たとえば、殿上人ということばがあるが、これは御殿の床の上に住む、身分のたかい人たちのことをさす。さらにこの殿上人にもいろいろあって、「上段の間」、「畳の間」、「板敷」と、それぞれそこに起居したり、出仕したりする人の階級がちがってきている。
(参考)
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女中でも、座敷にでる女中と、廊下で膳をはこぶ女中では、身分がちがうものだ。さて、この殿上人にたいするのが「地下人」である。すなわち、官位のない「いやしい」身分の人間――奉公人たちだ。そのかれらの生活空間は、土間にかぎられ、そこから上にあがることはなかった。「あずさ弓下女の涙は土間に落ち」と、江戸の川柳はいうが、それは御殿にかぎらず、武家屋敷でも、商家でも同様である。「地下人」である奉公人たちは、土間の上をいそがしくたちはたらき、そこは、かれらの汗と涙のしみとおった空間となった。このような事情は欧米にもなくはない。たとえば、一八世紀ごろのパリの建物をみると、一階は商店、二階は金持ちの住居、三階は中流サラリーマンの住居、四階は下級サラリーマンの住居、屋根裏べやは貧しい労働者のすまいというように、建物の階数で階層性が明確に区分されている。それが日本では、平面のわずかな段差を利用して規定したところに、大きな特色があるのである。